風のように、雲のように、そして夕げの支度の家々のように

 

 

もしも、私がいつの日か死んで

お葬式をしてくれるなら

「母は生前、このアルバムの2曲目のような人になりたい

と言っていました。」

とみんなに伝えて欲しい。

 

そして、このアルバムを流して欲しいと

子どもたちにお願いしてある。

 

 ピアニスト 川上ミネさんの曲だ。

 

 

 

以前私の塾に、お母様から激しいクレイムの電話があった。

連絡の行き違いで、休室の日に来てしまった中3の女の子が

私もその夜留守にしていた為

夜道を1人で歩いて帰って来たということだった。

 

それは、文句ではなく

お母様の悲鳴に近い怒りだった。

その声は、電話越しでも、

2階に居た娘にも聞こえたようで

「お母さん、大丈夫」と心配して降りてきた。

 

その授業の担当だったアルバイトの学生に

飛び火しないよう盾になり

落ち着いてくださるよう謝り続けるしかなかった。

 

ただ、彼も自分からも誠意を持って謝りたい、

と言ってくれた。

その言葉が、芯まで沁みた。

 

 

その深夜

疲れ果て、

イヤフォンをつけて、うつ伏せになって

川上ミネさんを流した。空っぽになりたかった。

 

2曲目で号泣する。嗚咽が漏れる。

何も言わずに普通にしてくれる主人の存在に安心して

涙が止まらない。

 

 

その時

脳の奥の方から

「許す」

と聞こえてきた。

 

誰かの声ではない。

でも言葉ははっきりしている。

 

そのお母様を「許す」とか

到底そんな単純な意味とは思えない。

 

私を「許す」のか。

誰が、何について、私に許しを与えたのか。

広い、広い、空間の中で

何かに私は、許された。

 

大きな優しさの、何かに。 

 

 

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小田和正』と書いて、『「この窓」の原風景 』と読む。

風のように、雲のように、そして夕げの支度の家々のように

私の心に沁みてくる、小田さんの音楽。

 

小田さんのように、綺麗な声や綺麗なメロディは

持ち合わせていないけど、

そんな風に言葉を紡げるようになったら素敵だ。

 

 

 

日々の中で

目に映るもの、聞こえてくるメロディが

身体の深いところで私を揺さぶる。

 

でも、それを言葉で言い表せない。

いつか、言い表す言葉を見つける。

それが私の目標だ。

 

 

 

川上ミネさんのピアノの音や

村治香織さんのギターの音や

優しい、嫉妬して降参してしまう程、優しい。

 

 

でも、いつの日かそんな文章を書けるようになりたい。

 

 

 

 

3月12日、胃癌で亡くなった義父の命日だ。

痛みと闘い、顔を歪めながら衰弱する義父の枕元に

音楽を流したい、と看護師さんに了解をもらった。

 

ラジカセとCDを持ち込んで、小さな音でかけた。

義母が「お父さんの顔が穏やかになった」と

心から喜んでくれた。

それから、まもなく義父は天国へと旅立った。

 

音楽の力は、凄い。

ささやかな言葉しかない私だけど、

いつか、近づきたい、音楽の凄さへ。

 

 

 ※川上ミネさんの他のアルバムはAmazonにもありますが

このアルバムは見つかりませんでした。

O MUE CAMINO      mine kawakami