恵みの雨降るコンサート
私が、魂を清めたいと思う時、ピアニスト川上ミネを聴く。
川上ミネのピアノの音は難しい音ではなく、ソフトで聴き易く理屈などない。
なのに、脳の奥底のスピリチャルな『魂』というところまで届いていく。
いっそ大泣きしてフラットになろうというときは、スタバでイヤホンで聴いても泣けてくる。
それは、彼女の活動が、単なる音楽活動にとどまらず、ピアノの音を通じて霊的な見えない尊いものに繋がろうとしているからなのか。
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私が初めて川上ミネのコンサートに行ったのは、娘からのサプライズプレゼントだった。
当時スペイン在住だった彼女が、2017年12月、東京サントリーホール ブルーローズでコンサートを開くことを知って、チケットをプレゼントしてくれた。
次はきっと一緒に行こうと娘を誘った。翌年2018年9月の奈良 春日大社でのコンサートで実現し、そこで二人して生涯忘れられない、不思議な感覚を味わうことになる。
春日大社創建1250記念
『発掘された千年のオカリナとピアノ』〜春日の神々とアンデスの神々に奉納する演奏会〜
とタイトルにあるように、オカリナ奏者フェルナンド・フランコとの共演だった。
控室から順次神主の先導のもと、春日大社林檎の庭に移動し、着席後に各人万灯籠に火を灯しお詣りをする。神聖な気持ちが盛り上がるうえ、暮れていく夕闇の中に美しく仄かな炎がいくつも揺れる。幻想的な気分にもなっていく。
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しかし、楽しみな気分とは裏腹に。
出発前から、台風の接近が予報されており、主催者サイドに開催の有無を問い合わせなければならない事態だった。
風はあるものの雨はもっていた。
でも、屋根だけの社で、風が冷たく感じる。
悪いことに、日没とともに雨も降り出した。
寒さが気になる。「しまったなぁ。コート必須だったなぁ。」と思いながら、辛うじて持っていたストールを身体に巻きつけることに必死だった。
そうして、最初の2曲、気もそぞろのうちに終わってしまった。
ところが。。。。3曲目
ミネさんが曲紹介の時に、こんなことを切り出す。
「私達(オカリナの人と)は、世界を回って演奏会をしていますが、必ず雨が降るんですよねー。私達演奏家にとって、雨は。。。
(大敵だと言うとしか思えない、が、、、)
。。。何よりの恵みなんですよね。
このリズム、この旋律、人の力ではかないません。」
試しにと、なんと会場の灯りを全て消すように主催者側に、突然ごめんなさいと加えて要望するのだ。
自分たちは、「自然の中で明かりのないところで演奏するなんて慣れている」と言って。
そして「雨と灯籠の光と、神さまを感じて聴いてほしい」と。
魂が揺さぶられる演奏に涙が溢れる。
不安の種だった風がすごく気持ち良くて、もっと涙が出る。
巻き付けるのに必死だったストールを緩めて、もっと風を楽しみたいと思った。
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この先、私がもっと年老いて、思い通りにいかず不安や絶望に襲われることもあるだろう。
ストールをしっかり巻き付けるように、身体をこわばらせてしまうかもしれない。
そんな時、きっとこの感覚を思い出そう。
共に生きる。
風や雨をネガティブに受け止めるか、ミネさんに導いてもらったように、恵みと感じるのか。
しなやかに生きれば、なんでも楽しく感じることができる。
そんなことを学んだ夜だった。