字のないはがき
この絵本はすでにご存知の方も多いのでしょうか。
私は先日、孫とライン電話をする時に、何か読んでやれる絵本がないかと物色している時に見つけました。
「なにこの豪華なオールスター絵本!」表紙でびっくり。
内容にもグッときて、即家に買って帰りました。
戦争が激しくなって疎開していく子ども達。
4人きょうだいの末の妹も、食べるものも手に入らなくなり、とうとう疎開させるしかなくなりました。まだ幼く字の書けない妹に、父はたくさんの葉書を用意し、全てに自宅の宛名を書いて渡します。「元気な日には、葉書に◯を書いてポストに入れなさい」と。
初めての葉書こそ大きな大きな赤鉛筆の◯だったのですが、次の日から急に黒鉛筆の小さな◯になり、日毎に◯は小さくなります。そして遂には✖️になり、やがて✖️のハガキも来なくなってしまいます。
この後、家族の小さな妹へ向けた愛のお話になっていきます。
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この3人の作家についてあげるなら、私なら、西加奈子の『サラバ』になる。彼女のほぼ自伝で、5年を費やしたとあったと記憶する。登場人物に善人も悪人もなく、全ての人物に憑依しているのではないかと思うほど、性格や生き様から生まれる人の感覚の違いを見事に語り分けている。
この人、こんなにいろいろな人間をわかって俯瞰できるなら、きっと悩みないだろうなぁと感心した。
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小説が臨場感。一方、絵本というのは、小説とは目線が違う。
自分が登場人物達の織りなす世界を俯瞰している。
小さな妹の気持ちも辛く切ないし、家で心配する家族の気持ちも胸に突き刺さる。
妹に言ってあげたい。「みんな、毎日あなたのことばかり思っているんだよ。決して一人じゃないよ」って。絵本の世界観は、自分も入っていけそうなふんわりとした設定で、手を差し伸べられそうで届かないファンタジーだ。
老いた私の父が、最近弱気になった時、ぽつりぽつりと母親(私の大好きだったおばあちゃん)のことを語っていた。そんなことは今までなかったので、電話越しに、ちょっと姿勢を正して耳を傾けた。
戦後、父親が病死し、母親は何事も自分は我慢し、自分たち子ども達のために生きてくれた人。と話す反面、ずっと心に引っかかる気持ちを持ち続けていたらしい。
自分は愛されていたのか。
亡くなる間際の父への言葉が『(脚の悪い姉)S子のことを頼む』だけだったと。
父も私と一緒だったんだ。なんだ、一緒だったんだ。
小説の世界のように、人の心を描写してもらえたらいい。
絵本の世界のように、人の心を、ふわふわ浮かぶ雲から眺めるように、手にとるように見えたらいい。
でも、そうはいかないから苦しい。
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後日、父からおばあちゃんの生年月日を確認して、少しかじった占いでおばあちゃんを見てみた。
「おばあちゃんはね、海のように広くて、穏やかで、それでいて自由な心の人だったと思うよ。おばあちゃんの愛は、そんなおばちゃんの脚のことでいっぱいになっちゃうほど、小さくない。お父さんのこともいっぱい思ってたんだよ」
と、偉そうに言っちゃったら、父は納得したのか否か
「そうか」
と、ひとこと言った。