ヒーローになりたい
今週のお題「やる気が出ない」
※この記事は以前も書いた、息子と仕事のお話です。
先日、寝苦しく明け方まで寝付けなかった。
諦めてタブレットとイヤホンを取って来て、横で寝ている主人を起こさないように、そっと川上ミネさんのピアノを聴く。
途端に頭の蓋がカパっと開いて脳が解放されていく。
寝苦しさの中で、どんなに頭と身体が萎縮していたかがわかる。
すると、日中送られて来た息子一家の動画が空に流れ出す。
幸せな風が、脳の中を抜けていく。
その動画は、
長男4歳が、部屋の隅の方からスタンバイしてカメラに向かってくる。
ママに抱っこされた長女5ヶ月が、キャッキャっと興奮する。
ママが「パパの方向いて」と優しく促すと
長男が、真剣そのものにキレッキレッの、ウルトラマン決めポーズを次々繰り出す。
もう、見なくても頭の中で再生される。笑えて、癒されて、脳の中がジーンと温まる。
***
例えば誰か一人の命と 引き換えに世界を救えるとして
僕は誰かが名乗り出るのを待っているだけの男だ
愛すべきたくさんの人たちが 僕を臆病者に変えてしまったんだ
Mr.Children 『HERO』より
3人を黙って映す息子は、ウルトラマンになり損ねている。
平凡なパパだ。
長男は何よりウルトラマンにキラキラの眼差しを向けるけれど、残念ながらパパはウルトラマンではない。
世界の平和より、この3人を全力で守ることだけだ。
この歌詞を聞くと、息子が幸せであることがイメージとなって、私は勝手に感動してしまう。
主人が父となった時の気持ちは、簡単には想像できなかったけれど、ずっと見てきた息子が父となり、私達と似た喜びを味わっているんだと思うと、ジンとする。
小学5年生の後期、息子は生徒会長に立候補した。
立候補者は二人だけの一騎討ちとなり、事実上人気投票のようになった。
息子は負けた。
けれど、自分の心には負けていなかった。
次の6年前期、再び立候補する。
ポスター書きも小物作りも「手伝おうか」という申し出は受け入れず、一人でやりきり、当選した。
高校の陸上競技生活。
雨の中のラストランも、ストップモーションのようにゆっくり流れているようだった。
努力にご褒美をくれる神様はどこにいるんだというくらい本番に力を見せつけられない。
いつもヒーローにはなれない。
けれど、簡単に報われることのない努力が、息子にとことん努力の仕方を学ばせた。
そんな姿を、私は人として尊敬している。
***
けれど努力の虫は、社会人になり、努力する理由を失い、バランスを崩してしまった。
人の上に立ちたいわけではなく、何かで成功したいわけでもない。
当時、やる気を失っていた息子に「好きなことを仕事にすれば良いんじゃない」と何度か言った。
でも、息子は「そうだね」とは決して言わなかった。
息子が求めていた生きる力の泉は、自分が好きなことを貫いたからといって得られるわけではない気がしていたのだろう。
今も息子は、ヒーローではない。
つまらないことに腹を立てるだろうし
ソファーで口を開けて寝てることもあるだろうし
上司の期待に応えようと、必死だろうし
頭を下げなきゃいけないことも、たくさんあるだろう。
僕の手を握る少し小さな手
スッと胸の澱みを溶かしていくんだ
***
でもヒーローになりたい ただ一人君にとっての
つまずいたり転んだりするようなら、
そっと手を差し伸べるよ
昼間、長男とウルトラマンごっこをして、徹夜で仕事して出勤する。
世界の平和どころじゃないけど、
かっこいいと思うよ。
そして息子が、子どもたちを見つめる優しい眼差し。それを与えてくれたお嫁さんに、いつも心から感謝しています。