『生まれ来る子ども達のために』

 

10月末は連休が取れるので、毎年島根の実家に両親の様子を見に帰る。

 

父が免許を返納してからは、姉が送り迎えをしてくれるので、都合良くいくように、姉の家の近くに宿をとることにしている。

 

その宿は、入った途端に大きな窓一面に日本海が広がっている。

荷物も下ろさず、ベランダに出る。

視界のまっすぐ先に水平線、その上に青い空と白い雲。

 

「海だー!」

気分は、映画『ホリデイ』でお金持ちのキャメロン・ディアスの家に足を踏み入れた時のケイト・ウィンスレットだ。

 

海ってなんでこんなにいいのかな。

 

以前『魔女の宅急便』の作者、角野栄子さんが、お気に入りの街鎌倉の海辺に立って、この疑問に自問自答して言っていた。

 
「遠くの方から運んでくるような気もするし、こっちの気持ちを持っていくような気もするし、、、」

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今回の島根は、ゆったり温泉に浸かることと、夕陽を見ることと、夜空の星を眺めることをとてもの楽しみにして2泊とった。
 
 
でも、父のコンデションが良くなくて、温泉は諦めた。
 
 
その上お天気も今一つで、夕焼けショーは期待外れ、星に関しては一つも光っていなかった。
夜ホテルから主人に電話をして「星がひとつもない」と言ったら、「え、それだけの用事?」と言われた。出発前、「きっと島根の星はもっと綺麗だぞ。」と気分を盛り上げさせたのはそっちじゃないか。
 
 
 
翌2日目は天気は少し回復した。
 
父も少し元気を出して、ランチを食べに出て、カフェへと梯子した。
そして、おしゃべり。それだけのことだけど、300kmを旅して来て良かったと感じるひと時。
 
 
父を送り届け、もう日暮れだ。
今日こそ「夕焼けショーin島根」だ、と姉の家へと車で急ぐ。
なんでも、姉もお気に入りの夕焼けスポットが近所にあると言う。白鳥もやってくる湖で、先日も来ていたから、と。
 
 
でもタイムアウト。「あっちの空綺麗だよ。」と言いながら、夕陽と競走したけれど、間に合わなかった。すっかり暗くなった湖の駐車場で、愛犬と白鳥が睨み合ってるその日の動画を見せてもらって、終わった。
 
 
 
 
夜の星は期待通り綺麗だよ。でも電話しない。口では言い表せないから。
波の音と漁火と、大きく光る星と細かく光る星。
やっぱりうちのベランダで見るのと違うよ。
 
いっぱい着込んでも海の夜風は冷たい。後5分、後3分、と、、、しみじみと見上げた。
 
 
 
***
 
 
9月2日。娘が出産した。女の子が生まれた。
 
2人は1ヶ月ほど、我が家で過ごした。
 
自分も2人の子どもを産んで育てたのだけれど、新鮮な不思議を感じさせてもらった。
 
 
1つ目は、私が産んだ娘が、子どもを産んだこと。
感慨深かった。ずっと先になるけど、娘もいつかこの不思議で感慨深い心境を味わう日が来るのだろうなと思う。
 
 
2つ目は、生命の不思議だ。生命が目の前で日々進化していく。脳がグングン発達していく。
と改めて感じるほどに、赤ちゃんって繊細で、逞しくて、不思議な存在だ。
 
 
3つ目は、愛の絆の力。
里帰りも終盤、娘は、私の勧めに後押しされる形で、2時間の予定で家をあけ、美容院に行った。うち合わせを万全にして。母乳なので、前日から哺乳瓶の練習をしたておいた。
 
赤ちゃんは、とても穏やかに寝てくれた。が、予定より早く目が覚め、おむつを変え、ウンチも出し、ミルクも100mlペロッと飲んで。
でも再び寝てくれる気配はなかった。抱っこして、なんとか2時間いけるかと、あやしながらも、私は少し焦る。
 
お腹が足りない様子で、少しむずがり出す。でも泣きはしない。
2時間を15分、30分と回っても帰って来ない。
 
さらにむずがり出したので、予定外だったけど、後20mlミルクを作った。
でも、さっきと違って舌で押し出す、「これではない」と、、、でも泣きはしない。
 
「お母さん、ごめんねー。」と玄関を開けると同時に娘が駆け込んで入って来た。その時だ、赤ちゃんが思いきり泣き出した。
 
 
娘の声が、ママの声が、生後1ヶ月もたたないこのか弱い存在に、「あの人だ」と理解させたのか。毎日、昼夜もなく、そばに寄り添う人との絆が結ばれているのだなと感動した。
 
 
***

 

 

多くの過ちを僕もしたように
愛するこの国も戻れない もう戻れない
あのひとがそのたびに許してきたように
僕はこの国の明日をまた想う

ひろい空よ僕らは今どこにいる
頼るもの何もない
あの頃へ帰りたい

ひろい空よ僕らは今どこにいる
生まれ来る子どもたちのために何を語ろう
何を語ろう

君よ愛するひとを守り給え
大きく手を拡げて
子どもたちを抱き給え

 

『生まれ来る子ども達のために』小田和正

 

 
 
3人の孫に出会えて、命に触れる時、この綺麗な地球を残していくのは私たちの使命だろうと、心から思う。
 
 
SDGsというと、申し訳ないけど、ピンとこない。
けど、孫達にも、その子ども達と一緒に、この星、この夕焼け、この海を見て欲しいと思う。
 
 
私たちだけが、便利で、私たちだけが良ければそれでいいというものではない、と、島根の夜空を見ながら、素直に、そして強く思えるのだった。